アトランティス

アトランティスへ行くぞ

と決心した君だが

荒れ狂う強風が予想され

今年出航するのは

愚か者の船だけだと知る。

そうして君は

一味に認められるために

酒やばか騒ぎが好きなフリをして

荒くれ者たろうと努める覚悟をする。

 

嵐に見舞われ、一週間イオニアの

古い港町に碇を降ろすことになったら、

聡明な賢者の話に耳を傾けるといい。

その者たちは、アトランティスなど

存在しないと証明した者たちだ。

彼らの理論を学べ。だがそのあざとさの背後に

見え隠れする、彼らの純朴で深い悲しみを察せ。

彼らは君に、信じる為に疑う方法を教えてくれよう。

 

旅の途中、法螺貝とドラの騒音が鳴り響く中

松明片手に夜通し踊り狂う、裸の蛮族が住まう

トラキアの岬に座礁したならば、

その荒々しい岩肌の大地で

服を脱ぎ捨て君も一緒に踊るといい。

なぜなら、アトランティス

ことを完全に忘れることなしに、

旅路を終えることは出来ないからだ。

 

同様に、陽気なカルタゴやコリント

に寄港したなら、その土地の

飽くなき宴に参加するといい。

居酒屋で娼婦が、君の髪を撫でながら

「ここがアトランティスよ、ぼうや」

と言い寄って来ようものなら、

彼女の身の上話を熱心に聞いてやれ。

アトランティスを装う

幾つもの安らぎの場所を経験せずに、

どうして真実が見抜けよう?

 

船がアトランティス近くの浜に着き

君は全てが一瞬にして無へと帰す

おぞましい森や凍り付いたツンドラを過ぎ

内陸へ向かう過酷な行程にあるとしよう。

運も尽き、周りを見れば

岩と雪、静寂と風

絶望に囲まれて立ちすくんだら

偉大なる先達のことを思い出せ。

旅に出て、苦しめられ、

あれこれ宣い、混乱した

自分の運命を全うするのだ。

 

そして歓喜しつつも

よろよろと前に進め。

仮に、最後の鞍部に辿り着いた

ものの、眼下に輝くアトランティス

前にして力尽き、そこへ

降りることが適わなくとも、

詩想<ポエティック・ビジョン>の中で

アトランティスを一瞥出来ただけでも

それは充分誇らしいことなのだから。

 

身近な神々たちは

みな涙を流し始めるだろうが

君は別れを告げ、海原に帆を張れ。

「さようなら愛する人たち、さようなら」

旅の名人エルメス

カビリ四小人神の加護があらんことを。

そして、何をしようとも

「日の老いたる者」が

そのまばゆい尊顔を君に向け

目に見えざる庇護を与えんことを。

 

W. H. オーデン(1907-1973)