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Born to be Wilde

ご無沙汰しております。三月は研究関係の行事が忙しく、結局ブログを更新出来ないまま終わりました。「毎月の始めにブログを更新する」という新年の抱負も敢え無く頓挫しました。いやあ我ながら持続性がない(苦笑)。

 

そんなわけですが、気づけば留学を初めてほぼ丸一年が経ちました。ダブリンが舞台となるジョイスの作品をここ数年読んでいたからか、来た当初からあまり「外国」という感じはしませんでしたが、一年住んでみて本当の意味で "Dubliner" 「ダブリンの市民」の仲間入りが出来た気がします。観光客がどういう印象を受けるかは別として、ダブリンは暮らすにはとても便利で楽な街です。

 

さて、ダブリンといえば街中にあるパブが有名ですが、文化施設も負けじとあります。中でも目立つのが劇場です。ユネスコ指定「文学の都市」の異名は伊達ではなく、中心街だけでも国立劇場であるアビー座(the Abbey Theatre) を含め立派な劇場が5、6個あります。ダブリンの人口が53万人(アムステルダムの三分の二くらい)なのを考えると、なんと贅沢な数でしょうか!

 

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しかし、それも不思議ではありません。20世紀に限っても、ダブリンはジョージ・バーナード・ショー(George Bernard Shaw, 1856-1950)、W. B. イェイツ(W. B. Yeats,1865-1939)、ジョン・ミリングトン・シング (John Millington Synge, 1871-1909)、ショーン・オケーシー(Sean O'Casey, 1880-1964)、サミュエル・ベケット(Samuel Beckett, 1906-1989)等、世界的に有名な劇作家を数多く輩出しています。

 

当然演目のレパートリーも相当あるわけで、毎月(下手すると毎週)どこかの劇場で有名な劇作家の作品が上演されています。そこまで演劇に造詣が深いわけではないのですが、アイルランド文学者としてこれ以上恵まれた環境はないので、研究の傍ら筆者もよく劇場に足を運んでいます。

 

最近では、ダブリンが生んだダンディズムの父、オスカー・ワイルド(Oscar Wilde,1854-1900)作『理想の夫 An Ideal Husband』(1895)を観ました。

 

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ダブリンに生まれ、ダブリン大学(トリニティ・カレッジ)そしてオックスフォード大学を出た後にロンドンで小説家そして劇作家として大成したワイルドはともすると「イギリスの劇作家」として語られがちですが、作品を彩るユーモアとウィットはまごうことなきアイルランド産。ワイルドの劇の多くは、(『サロメ Salomé』を除くと)イギリスの上流階級の風刺が利いていますが、『理想の夫』もその例に漏れません。

 

物語は、一組の夫婦(チルターン卿夫妻)とその友人(ゴーリング卿)と後者の昔の恋人(チェブリー夫人)を軸に展開します。チルターン卿が過去に犯した不正がチェブリー夫人によって暴かれそうになり、政治家そして夫としての名誉を守るためにチルターン卿がゴーリング卿と手を組んで色々と画策するのですが、その過程でヴィクトリア朝のイギリスにおける男女関係ひいては人間関における「誠実さ」とは如何なるものかという命題が皮肉たっぷりに劇化されています。

 

当時の歴史背景をより詳しく知っていると更に味わいが出るのでしょうが、そうでなくても充分楽しめる作品です。アフォリズム(金言)の名手ワイルドならではの、思わず唸らされる軽妙な名(迷)言の応酬も見物です。機会があれば是非ご覧ください!