And I'll be your girl if you say its a gift
新年おめでとうございます。あっという間の2015年でした。
新年最初の週末は新年会、誕生日会、昼食会と慌ただしく
(みな段々クリスマス休暇に飽きて、外出したくなるようです)、
久しぶりにガーッと人と会って少々気疲れしたので(笑)、
気分転換に映画を観てきました。
観た映画は『リリーのすべて』(The Danish Girl)という、
世界で初めて性転転換手術を受けたデンマークの画家
ゲルダ・ヴェゲネル(「リリー・エルベ」)の生涯を追ったもの。
2001年に出版された、ディビット・エバーショフの伝記が
元となっているようです。
主演は『レ・ミゼラブル』の映画版 (2012) や、
イギリスの有名な物理学者スティーヴン・ホーキングと元妻の
関係を描いた『博士と彼女のセオリー』(2014) にも出た
イギリスの若手俳優エディ・レッドメイン。彼が主演する映画を
観るのは今回が初めてですが、なかなかいい役者さんですね。
舞台あがりみたいですが、さすが演技も細やかで、
「間」の使い方もうまい。見所は、リリーという
ゲルダの女性人格の演技ですが、徐々に徐々に
女性となっていく主人公の微細な心境の変化をよく捉えています。
最初のうちは、いかにも「女装した男性」という感じなのですが、物語後半に
差し掛かる頃には、不思議と普通の女性に見えてしまいます。
印象に残ったのが、性転換手術を終え「気分はどう? ("How are you?"」
と奥さんに聞かれて、「わたしはすっかりわたしだわ ("I am entirely myself")」
と答えるリリー。女性の心と合致する、女性の体を手にいれたという意味ですが、象徴的な次元で解釈すると、男性・女性という体/心を両方経験して完全な自分となった、とも取れるかと思います。
多くの人は男性あるいは女性どちらかの体と心を持っているわけですが、両方の視点・感性を備え持つ人間をいずれかの枠に押し込めることは、ある意味その人の人格を否定することになるわけです。事実に基づいているかはわかりませんが、ゲルダの奥さんが、女性である夫の部分も受け入れて、リリーとなった夫の絵を描いて画家として初めて認められるという展開も、そういう問題と関係があるのでしょうか。
とにかくも、『リリーのすべて』を観て、ジェンダーは何よりもアイデンティティーの問題なのだなと改めて気づかされました。日本でも2016年中に公開されるらしいです。興味のある方は是非!
日本公開決定!エディ・レッドメイン主演、世界初の性転換をした男性を描く「デニッシュ・ガール」 | シネマフロントライン|新作映画ニュースと予告編
アイルランドにもトランス(性転換)ものの映画・文学作品があるので、
次回はそちらを紹介しようと思います。
ちなみに、今回の記事のタイトルはフィオナ・アップルの曲 "Fast as You Can" の歌詞を流用しています。「わたしは変わっているけど、そんなところも受け入れてくれるなら、あんたのオンナになるわ」という意のくだりです。一昨年の秋に、ブラッド・メルドーとクリス・シールがピアノとマンドリンのデュオ・コンサートをダブリンでやった時に、この曲をカヴァーしていました。クリスが"I'll be your girl~" の歌詞をそのまま歌った時は、観客からどっと笑いが出ました(笑)。「トランスもの」というわけではないですが、この映画を観て曲のことを思い出しました。よければこの記事のBGM としてお聴き下さい。