London Calling

去る6月23日にイギリスのEU脱退(通称 "Brexit") を巡って国民投票が行われましたが、52%対48%で脱退派の多数に終わりましたね。予想外の結果となり、イギリス政治は混乱を極めていますが、アイルランドにも不穏な空気が広がっています。新聞やニュースでは、元大英帝国の一部として、今でもイギリスと密接な関係にあるアイルランドは、EU 諸国の中で最も "Brexit" の影響を受けるのではないかと言われています。以下では、報道内容をもとに、その議論を幾つかかいつまんで紹介します。

 

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まず政治面ですが、国民投票の結果を受けて、ナショナリスト政党であるシン・フェイン [Sinn Féin] 党が、北アイルランドアイルランド共和国の「統合」の是非をめぐる国民投票を行うべきだと主張しました(*1922年にアイルランド共和国 [南の26州] はイギリスから独立しますが、北の6州はイギリスに残ります)。スコットランドと同じく、EU 残留派が多数だった北アイルランドの住民の意思を尊重するには、EU の成員である南に北が加わるしかないという議論ですが、どれだけ支持されるのでしょうか。

次に経済面。アイルランドの最大の貿易相手はイギリスであり、イギリスが EU を脱退し共同市場からも外れて通商に関税が課されるようになると、アイルランド経済はかなりの打撃を被るのではないかと推測されています。特にダメージが大きいと思われるのが、イギリスに製品や作物を輸出している中小企業と農家。ポンドの下落とも相まって、イギリス側の購買力が下がり、以前ほど商品が売れなくなるのではと危惧されています。イギリスを見限り本拠地をアイルランドに移す企業も出て、全体的にアイルランド経済にはプラスになるだろうという見解もありますが、果たしてどうなのでしょう。

最後に社会面。"Brexit" の大きな争点として、移民問題があります。EU の市民であれば、他の加盟国においてビザを取得せずとも滞在・就労できます。EU を離脱することで、このシステムを利用してイギリスに流入してくる他のEU 加盟国(そして中東・アフリカ)からの移民の数を制限しようというのが離脱派の狙いですが、門戸を閉ざされた移民の多くは、地理的にも文化的にもイギリスに近いアイルランドにやってくるのではないかと言われています。アイルランドはイギリスのような産業大国でも多民族国家でもなく、大量の移民が流入するとなると、仕事の取り合いや社会保障の逼迫や人種差別など様々な社会問題が浮上する可能性があり、政府としては頭の痛い問題です。 

以上、アイルランド観点での "Brexit" 考察でした。まだまだ見通しは不透明で、どのような展開になるのか分かりませんが、アイルランド市民の多くは "Brexit" の行方を固唾を飲んで見守っています。

 

ところで、 "Brexit" の国民投票が行われる一週間前、学会のため筆者はロンドンにいました。女王の公式の誕生日(実際の誕生日とは異なる)直後で、至る所にユニオン・ジャックが掲げられていました。

 

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学会の会場は Institute of English Studies, School of Advanced Study, University of London で、ヴァージニア・ウルフや D. H. ローレンスゆかりの Bloomsbury の真っ只中にあります。ロンドン大学の付属校や付属研究施設が多数この地区にあり、さしずめロンドンの文教区と言ったところでしょうか。

 

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上の写真にあるように、Bloomsbury の中心はとてもお洒落で高級感漂う感じなのですが、筆者が泊まったのは学会会場から15分ほど歩いたところにある、 LSE の学寮(最寄り駅は Holborn)。住宅地というよりは繁華街という感じでしたが、アジア系のお店が多く、なんと一風堂のロンドン支店までありました! 試しに入ってみましたが、ラーメンは日本のとほぼ同じクオリティーで感動しました(笑)。

 

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学会後の週末は大学の後輩と会い、シェイクスピアの劇の数々を上演したことで有名なグローブ座(建物は復元)すぐ近くのレストランでアフタヌーン・ティーをしました。アフタヌーン・ティーといえばイギリスの夏の風物詩という感じがしますが、滞在中は気候も夏らしく(イギリス・アイルランド基準で)とても快適でした。いつ行っても新たな発見があるロンドン、また訪問できる日を楽しみにしています!

 

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BGM: タイトルは1970年代に活躍していたイギリスのパンクバンド、The Clash の曲 "London Calling" を借用していますが、今回 BGM として紹介したいのは、アメリカのジャズ・ピアニスト、Brad Mehldau による The Beatles の "Blackbird" の演奏。イギリスにも一年留学していましたが、毎日のように聴いていました。今でも聴くと当時のことを思い出します。

 

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